K君は私の高校での唯一の友達だ。
高校には3年間通ったが、友達と呼べる人間は彼だけだった。
昼休みになれば、二人で図書室におもむいた。私が購入したその週の「宝島」を交代で読む、そういった関係だった。親友、といっても差し支えないのかもしれない。
彼が雑誌に夢中になっている間、私は図書室の窓から運動場でサッカーを楽しむ「友達」ではないクラスメイトを眩しそうに眺めた。「太陽の子ら」という言葉が彼らを眺める私の脳裏に浮かんだ。汗を流し玉を追う彼らは愛されていた。クラスの女生徒以外の存在にさえ。私にはそう思え、我々と彼らを隔てるものを中空に感じた。

K君は私以上の冷笑家で、いわばそれが彼のスタイルであったが、スタイルにとらわれる分、幾分わかりやすいところもあり、それが私には少々不満であった。またときどき理解不能の憤怒を示すことがあった。思えば彼は、私に甘えていたのだろう。私がK君から借りたドラゴンクエストで、空いていた冒険の書の三つ目を私のセーブに使ってしまい、一週間ほど口を聞いてもらえなかった覚えがある。未だにどうすればよかったのか、よくわからない。


高校を卒業したあと、私は地元の大学へ通い、彼は名古屋の国立大学へと進学した。
彼とは高校の卒業式以来会っていない。
噂に聞くところ、彼は某県の県庁への就職を蹴り、警察官になった。
頭のいい彼のことだ、きっとなにか目論みがあったに違いない。


K君のことでよく覚えていることがひとつある。
高校を卒業する少し前だろうか、学校から帰る電車のなかでなにかの拍子に彼が呟いた。
「日本の年金制度がとっても心配」


11年前の話である。高校生が心配するか?そんなこと。
今、警察官であるだろう彼はなにを考えているのだろうか。
一度会って話してみたい。きっと思いもしない話が聞けるだろう。
そして改めて訊ねてみたいと思う。
ぼくはセーブ、禁止なの?