「水死」というのは考えうる限り、最低の死に方である。
第一、想像できない。あれはどうなるの?水飲んでさ、そのあと、どうなるの。どうやって、死ねるの?
死に至る、それまで、が思い浮かべない。想像を遥かに、超えているという事実自体がすでに恐怖である。おかげでお風呂で一人、ぶくぶくしてしまう。




狭くて、身動きの取れない状況に陥れば、まず私は発狂するだろう。
昔読んだ「煙突から侵入しようとした泥棒が途中で詰まって家主に助けを求める」という滑稽な話も私にすれば、地獄の責め苦以外の何者でもない。井戸の底という状況も、然り、十分に狂気に値する。ある探検家が雪山でクレパスに落下し、数十メートル上の地上の救助隊から食料を得つつも、結局抜け出すことができず数日後に死んだ、という話を寝る前に、お布団にはいり、少し想像してみるだけで、毎晩絶叫してしまう。




絶叫し、眼を見開き、息を荒げる。深呼吸して、両腕で自分を抱きしめ、生きてて、良かったぁ、と声に出してみる。確かに仕事は悪夢のようで、毎日気の休まる瞬間もないけど、徐々に高まる水かさに、必死を覚えることもなく、いつ来るかもしれぬ助けを暗闇で求めることもない。まだ、比べれば、ましだ、と思う。




同時に、それほど大きな違いなど、ないのかもしれぬ、とも思うのです。少し泣いて、一人そんなピュアな自分を、笑うのです。そして井戸の底から見た切り取られた空を思い出して、絶叫。